支払督促について

取引先が売掛金や貸金を支払わない場合,通常は,内容証明郵便を送り,相手方の対応をみますが,裁判所を利用する債権回収の方法としては,訴訟の他に「支払督促」という制度があります。
支払督促は,通常の訴訟に比べると手続きが簡易ですので,事案によっては,債権回収の有効な方法となります。
以下,支払督促について具体的に説明します。

支払督促とは

支払督促は,簡易裁判所の裁判所書記官を通じて,債務者に対して債務の支払いを命じる督促状が送られる制度です(民事訴訟法382条)。

支払督促が債務者に送達された日の翌日から2週間以内に債務者が異議を申し立てなければ、債権者が2週間経過日の翌日から30日以内に仮執行宣言の申立てをすることで,債務者の財産に強制執行することが可能となります。

支払督促の流れ

支払督促の手続きの流れは,以下のとおりになります。

  1. 支払督促申立書を提出
    請求額にかかわらず,債務者の住所地を管轄する簡易裁判所の書記官に申立てます。
  2. 支払督促の送達
    申立書の受理・審査を経て,書記官から債務者に支払督促が送達されます。
  3. 支払督促受領後
    送達を受けた債務者は,異議があれば,受領後2週間以内に異議申立書を裁判所に提出します。
    →債務者の異議申立があれば,通常の訴訟に移行します。
  4. 仮執行宣言申立書を提出
    債務者から異議申立てがなく2週間が経過した場合,債権者は30日以内に仮執行宣言申立書を書記官に提出します。

    ※ 30日以内に仮執行宣言の申立てをしないと支払督促は無効になるので注意が必要です。

  5. 仮執行宣言付支払督促の送達
    申立書の受理・審査を経て,書記官から当事者双方に仮執行宣言付支払督促が送達されます。
  6. 仮執行宣言付支払督促の受領後
    送達を受けた債務者は,異議があれば,受領後2週間以内に異議申立書を裁判所に提出します。
    →債務者の異議申立があれば,通常の訴訟に移行します。
  7. 仮執行宣言の付与
    債務者から異議申立てがなく2週間が経過した場合,仮執行宣言が付与され,支払督促は裁判の判決と同一の効力を持ちます。債権者はこれに基づいて強制執行(差押え等)を申し立てることができます。
    債務者が強制執行を止めさせるためには、裁判所に執行停止の申立てをする必要があります。

支払督促の特徴

★メリット

  1. 手続きが簡単
    債権者の申立書を受理した裁判所は,書面審査のみを行うため,通常の訴訟のように裁判所に出頭したり,証拠を提出する必要はありません。
  2. 迅速
    訴訟のように,債務者を呼び出して答弁をさせたり、証拠調べは行われません。
    債務者からの異議がなければ,早ければ1ヶ月程度で強制執行手続が可能となります。
  3. 費用が安い
    支払督促の申立手数料は訴訟手数料の半額です。例えば,請求額が100万円の場合,5,000円+切手代です。
  4. 強制執行が可能
    仮執行宣言を得れば,強制執行をすることができます。

★デメリット

  1. 利用目的が限定される
    支払督促は,金銭の支払又は有価証券若しくは代替物の引渡しを求める場合に限ります。したがって,不動産の明渡請求等では利用できません。
  2. 債務者の所在地が不明の場合は利用できません。
    公示送達が利用できないため、債務者の所在が不明の場合は手続きの利用はできません。
    (ただし,仮執行宣言付支払督促の正本を送達する場合には公示送達が可能です)。
  3. 通常訴訟に移行する可能性がある
    債務者が異議を申立てると通常訴訟へ移行します。したがって,請求に関して争いがある場合には,時間の無駄となり有効な手段とはいえません。
    また,異議により通常訴訟に移行した場合,債務者の住所を管轄する裁判所で裁判が行われることになります。そのため,債務者の住所が遠隔地にある場合には,その遠隔地の裁判所に出向かなければならないという負担があります。

支払督促の利用が向いている場合

以上のように、事案によっては支払督促に向かない場合がありますので、債権回収の手段として支払督促が有効な場面かどうかをよく検討する必要があります。
例えば,債務の存在や金額に争いはないが,債務者がなかなか支払わない場合や,債権者に有利な証拠がある場合等,訴訟になっても債権者に勝算がある場合には,債務者も異議を申し立てにくいと考えられるため,支払督促を利用する価値があるといえるでしょう。

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