残業手当請求事件におけるポイント

さて、労働基準法の改正により、平成22年4月1日以降、月60時間を超える部分の時間外労働については50%以上の割増賃金の支払いが必要となりました(但し、中小企業事業主―資本金3億円(小売業、サービス業は5000万円、卸売業は1億円)以下又は労働者300人(小売業は50人、サービス業・卸売業は100人)以下の事業主―の事業については、当分の間、適用しないとされています。)。
そこで、今回は、残業手当請求事件におけるポイントを以下に整理しようと思います。

  1. 割増賃金の内容は、以下のとおりです。
    1. 時間外労働→25%以上
    2. 休日労働→35%以上
    3. 時間外労働+深夜労働→50%以上
    4. 休日労働+深夜労働→60%以上
  2. 付加金
    残業手当を支払わない場合には、労基法違反に対する制裁として、裁判所から本来支払うべき未払い金と同額を付加金として命じられることがあります。
    但し、付加金の趣旨から、判決までに違反状態が除去されれば、裁判所は付加金を命じることができません。
  3. 遅延損害金の利率
    1. 割増賃金
      被告が会社の場合、商事法定利率の年6%です。
      退職後に請求する場合には、退職日の翌日以降は年14.6%となります(賃確法6条、同施行令1条)。

      但し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争っている場合には適用されません(同法6条2項、同法施行規則6条4項)。

    2. 付加金
      判決確定の翌日から年5%です。
  4. 労働者側のポイント
    1. 時間外労働、休日労働とは
      時間外労働とは法定労働時間(1日なら8時間―労基法32条)を超える労働を指し、休日労働とは法定休日(毎週1回―同法35条)を指します。
      したがって、雇用契約上、1日7時間労働の場合、4時間残業しても時間外労働は3時間のみとなります。週休2日制における1日の休日や週休日でない祝日休日といった法定外休日の労働は、休日労働に該当しません。

      但し、就業規則で所定労働時間を超える労働については就業規則で割増賃金を支払うことになっている場合も多いですし、法定外休日についても休日労働に相当する割増賃金を支払うことになっている場合も多く、確認が必要です。

    2. 手待時間が労働時間にあたるか
      使用者の指示があれば直ちに作業に従事しなければならない時間として使用者の指揮監督下にあるか、指揮監督から離脱して労働者が自由に利用できるかがポイントとなります。
    3. 時間外労働をしていることの立証の程度
      主張立証責任は労働者側にありますが、一方で使用者には労働者の労働時間を管理する義務があります(cf.労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準)。
      そのため、個人的な日記や手帳のような資料であっても、使用者側が有効な反証ができない場合には、一応の立証がなされているとして処理されることもあります。
      その他、メールの送信履歴、ファイルの更新履歴、業務日誌・報告書等で裏付けることが可能となる場合があります。
  5. 使用者側のポイント
    1. 残業の指示をしていないとの主張
      使用者の指揮命令下にあったといえるかがポイントです。黙示の指示があったと認定される場合があります。

      使用者側の事前予防としては、残業に関する申請ルールの周知徹底を図る、残業禁止命令を出しておくなどが重要です。

    2. 時間外手当に相当する定額手当の支給
      労基法は最低額を定めているだけです。

      そのため、計算された時間外手当と時間外手当に相当する手当とを比較して、後者の方が高ければ時間外手当の支給は不要となります。但し、低ければ差額分の支払いを要することとなります。
      基本給に組み込んでいる場合には、基本給のうち時間外手当に相当する部分を明確に区分して合意しておく必要が生じます。

    3. 管理監督者(労基法41条第2号)
      判例上、管理監督者に該当するとの認定はかなりハードルが高いといえるでしょう。店長が管理監督者に該当しないとした日本マクドナルド事件東京地裁判決などが有名です。

      ポイントは、以下の4点です。

      1. 管理職手当の支給がされており、時間外手当に見合うような額か
      2. 出退勤についての規制の有無及び程度
      3. 職務内容がある部門全体の総括的なものか
      4. 部下に対する労務管理上の決定権等について一定の裁量権を有しているか、部下に対する人事考課、機密事項に接しているか
    4. 事業場外労働についてのみなし制(同法38条の2)
      労働時間を算定しがたいといえるかがポイントです。
      労働時間の管理者が随行する場合や、労働者が携帯電話等で随時使用者の指示を受ける場合、訪問先や帰社時刻等につき具体的な指示を受ける場合は適用されず(昭和63年1月1日基発1号)、残業手当を支払う必要が生じる可能性があります。

【参考文献】
・元東京地裁判事山口幸雄他著「労働事件審理ノート[改訂版]」判例タイムズ社
・東京地裁判事渡辺弘著「労働関係訴訟」青林書院
以上
(H22.6.15記す)

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